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びのにほんてきげんせん
美の日本的源泉
高村 光太郎
Read 美の日本的源泉 (びのにほんてきげんせん) by 高村 光太郎 (たかむらこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,919 characters · 25 screens
こういう凡人の相貌を芸術化するという稀有な役割を持つ能面が、野卑な悪写実に走らずして、最も高雅な方向に向ったのは、一に当時の洗煉された一般的美意識によると共に、能楽という演技そのものが、その発祥を格式を尚ぶ社寺のうちに持ち、謡曲のうしろには五山の碩学が厳として控えて居り、啓書記、兆殿司、斗南、鉄舟徳済というような禅門書画家の輩出数うるに遑なきほどの社会的雰囲気の中に育ち、わけて天才世阿弥のような実技者のきびしい幽玄思想に導かれた事によるのである。
能面の美は演技上の必要から来た其の表情の縹渺性に多く基いている。喜怒哀楽をむき出しに表現せず、そのいずれでもなく、又そのいずれでもあるような、含みを深く湛えた美の性格を極限の境にまで追及して得た此の奥深い含蓄性は、世界に類を見ない美の日本的源泉として、今日われわれの内にこんこんと湧いて已まない無限の力を与えてくれる。「般若」のような激情の面でさえ、怒であると同時に、悲でもあり、のしかかる強さであると同時に、寂しい自卑自屈の弱さでもある。こういう類の表現は単にそれを理解する事だけですら、恐らく今日の世界に於ける美の感覚の程度では及び難いのではないかと考えられる。