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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

Read 脱線息子 (だっせんむすこ) by 佐々木 邦 (ささきくに) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 108,293 characters · 221 screens

Aozora Bunko

「心細いな。先様は旗本だぜ。あの玄関構えじゃ水野十郎左衛門ぐらいの格式だろう。そこへ持って行って御家人だの足軽だのって、却って藪蛇になりはしないかい?」

「足軽だって士だろう? 寺岡平右衛門を見給え。兎に角士なら宜いんだ」

と新太郎君も昔のことはアヤフヤで、芝居の人物を唯一の典拠にしている。

寛一君は尚お少時話し込んでから、

「それじゃ勝負は先ず五分々々だね。明日の朝が楽みだ」

と言って立ち上った。

「君が又その椅子に坐るまでには定っているよ」

「それは然うさ」

「僕も何方かになっているよ」

「え?」

「事によるとこれがお別れかも知れないよ」

「おい、君、変なことは言いっこなしにしようじゃないか?」

「瞞しっこもなしにしたいものだね」

「え?」

「さよなら。お達者で」

「君、君、何が気に障ったんだい?」

「君は誠意がない」

「何故?」

「僕は今まで君に釣られて働いて来たんだ。貰ってやると言うから、真正に貰って貰えると思っていたんだ。九分九厘大丈夫だと云うから、その積りで八九十と二月半、一日も休まなかったんだ」

「殆んど大丈夫じゃないか? 秀子さんの心持も定っているし、松浦さん夫婦も賛成、お父さんも伯父さんもついている」