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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
Read 花火・来訪者 他十一篇 (あぢさい) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 52,046 characters · 104 screens
凡そ物極れば必ず尽るはこれ避くべからざる天然自然の法則である。一身の幸は軈て失われんが為めにのみ存在し、一国の運命は凡て滅びんが為めに栄ゆる。もしこれを避けんとせば宜しく最初から、栄え誇らんとする事なく、国家にしたならば永久に野蛮未開の地位に止ってそれから一歩も進み出ぬようにしていなければならぬ。人智の開発進歩を教るは早晩何等かの結末に赴く一階段を占わすに外ならぬ。
学才に富み、智識豊かに、趣味高く、礼儀を喜び、人生の経験深く、喜怒哀楽の夢のかぎりを味い尽したものは、自然と何事に対しても争闘する勇気が乏しくなる。争闘を恐れると云うよりは寧ろ、争闘の結果の甚だつまらない事を予測するからである。予測しまいと思っても豊富緻密なる経験から自然と先きが見え透いて仕舞うからである。
歴史は羅馬人がゼルマン民族に破られた事、平家が源氏に負けた事、支那歴代の帝国が北方の匈奴の侵略に苦しめられた事を語っている。生粋の江戸子は地方の移住者の為めに全く敗れて河の彼岸に退却してしまった。
須田町でも尾張町でも茅場町でも何処でもよい、電車の乗換場の混雑は吾々に向って日々百巻の書物よりもなお有益な教訓を与えている。