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よしとししゃせいちょう
芳年写生帖
野村 胡堂
Read 芳年写生帖 (よしとししゃせいちょう) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,626 characters · 26 screens
三月でも四月でも、一緒に住んだお前の心持が、私に解らないと思うのかッ」
「馬鹿なッ」
「お前は上野で官兵に斬られるところを、あの人に助けられたと言ったろう。一旦かくまった恩人を訴人して、義理も人情もない、それでも江戸っ児の端くれかい。畜生ッ、意気地なし、そのくせ、いけ図々しく、こんな虐たらしい絵まで描いて来やがって、ぬけぬけと私に見せるなんて、何んて根性だろう、外道ッ、鬼ッ」
およつは半狂乱でした。揉みも揉んだ姿で、芳年の首へ胸へ、髻へと武者振り付くのです。
「俺じゃない――誰か訴人をしたに違いないが、この芳年じゃ無い」
「それほど潔白なら、何んだって、こんな無慚絵なんか描いたんだ。人の死ぬのをヌケヌケと見ていて宜いものか悪いものか、思い知らせてやるから、畜生ッ」
小格子で年一杯叩き上げたおよつは、妖艶で取廻しの良い女でしたが、その代り、執拗で病的で、意地っ張りで気違い染みた女でした。
「待ちなよ、俺だって人の殺されるのが面白いわけじゃないが、今の時世を写すには、こんなものでも描くより外に仕方が無い。天下後世に、俺の芸道を遺すためには、油汗を流し乍ら、歯ぎしりして、無慚絵を描くのだ」