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わかきひのジンギスカン
若き日の成吉思汗
林 不忘
Read 若き日の成吉思汗 (わかきひのジンギスカン) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 33,827 characters · 68 screens
堡塁の傍らに、旗竿を立て、黄色の地に、白の半月と赤い星を抱き合わせに染め抜いた、札荅蘭族の旗が掲げてある。上手に、城中へ通ずる鉄扉あり。
眼下はるかに塔米児、斡児桓両河の三角洲。川向うの茫洋たる砂漠には、成吉思汗軍の天幕、椀を伏せたように一面に櫛比し、白旄、軍旗等翩翻として林立するのが小さく俯瞰される。彼方は蜒々雲に溶け入る抗愛山脈。寄せ手の軍馬の蹄が砂漠の砂を捲き上げ、紅塵万丈として天日昏し。
真っ赤な空の下、揉み合う軍兵の呶号、軍馬の悲鳴、銅鑼の音、鏑矢の響き、城寨より撥ね出す石釣瓶など、騒然たる合戦の物音にて幕あく。
しばらく舞台無人。城の他の部分で攻防戦の酣なる模様。下手は断崖につづける望楼の端、一個処、わずかに石を伝わって昇降する口がある。上手の扉から金の国(支那)の商人が従者を伴れて、這うように出て来る。両人とも連日の空腹によろめき、今日の猛襲に恐怖昏迷している。
商人 おう、おう。ここは大丈夫らしいぞ。ここまではどうやら矢も飛んで来まい。いやどうも、こんな目に遭うくらいなら、死んだほうがましだ。
従者 まったくでございます。あの時、和林から別の道をとって、まっすぐお故郷へお帰りになればよかったものを。