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「ちゃわんのゆ」のことなど
「茶碗の湯」のことなど
中谷 宇吉郎
Read 「茶碗の湯」のことなど (「ちゃわんのゆ」のことなど) by 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,038 characters · 11 screens
イオンというのは、分子程度の大きさのものであるから、それ自身はどういう方法によっても、到底人間の眼には見えないものである。しかし今の方法によって、それが芯になって霧粒が出来ると、その霧粒は、強い光で照してやれば、光って肉眼にも見える。それで霧粒の出来たことから、その位置に、イオンがあったことが分るのである。
ところが、この頃は誰にも耳馴染の宇宙線とか、電子とかいうものは、空気中を走る時に、空気の分子と衝突して、それをイオンにする性質がある。それで例えば宇宙線が「ウィルソン霧函」の中を通った瞬間には、その通った道に沢山のイオンが出来ている。その時に装置をはたらかすと、そのイオンを芯にした霧が出来るので、その道が白い線となって眼に見えるのである。
電子や分子程度の大きさのものの運動の状態が、このようにして、人間の眼に見えることになったのである。「ウィルソン霧函」が、現在世界の物理学の主流となっている原子物理学の領域で果している任務の重さが十分理解されるであろう。この霧函の発明がなかったならば、原子物理学は、現在の進歩をなし得なかったと言うことが出来る。