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くさまくら
草枕
Read 草枕 (くさまくら) by Natsume Sōseki (夏目 漱石) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 84,485 characters · 170 screens
路寂寞と古今の春を貫いて、花を厭えば足を着くるに地なき小村に、婆さんは幾年の昔からじゃらん、じゃらんを数え尽くして、今日の白頭に至ったのだろう。
馬子唄や白髪も染めで暮るる春
と次のページへ認めたが、これでは自分の感じを云い終せない、もう少し工夫のありそうなものだと、鉛筆の先を見詰めながら考えた。何でも白髪という字を入れて、幾代の節と云う句を入れて、馬子唄という題も入れて、春の季も加えて、それを十七字に纏めたいと工夫しているうちに、
「はい、今日は」と実物の馬子が店先に留って大きな声をかける。
「おや源さんか。また城下へ行くかい」
「何か買物があるなら頼まれて上げよ」
「そうさ、鍛冶町を通ったら、娘に霊厳寺の御札を一枚もらってきておくれなさい」
「はい、貰ってきよ。一枚か。――御秋さんは善い所へ片づいて仕合せだ。な、御叔母さん」
「ありがたい事に今日には困りません。まあ仕合せと云うのだろか」
「仕合せとも、御前。あの那古井の嬢さまと比べて御覧」
「本当に御気の毒な。あんな器量を持って。近頃はちっとは具合がいいかい」
「なあに、相変らずさ」
「困るなあ」と婆さんが大きな息をつく。