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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Read 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 133,224 characters · 269 screens
そういう無用な感慨に打たれるのが何より嬉しいからである。
同じ荒廃した光景でも名高い宮殿や城郭ならば三体詩なぞで人も知っているように、「太掖勾陳処処ニ疑フ。薄暮ノ毀垣春雨ノ裏。〔太掖か勾陳か処処に疑う。薄暮の毀垣 春雨の裏。〕」あるいはまた、「煬帝ノ春游古城在。壊宮芳草満ツ二人家ニ一。〔煬帝の春游せる古城在り。壊宮の芳草 人家に満つ。〕」などと詩にも歌にもして伝えることができよう。
しかし私の好んで日和下駄を曳摺る東京市中の廃址は唯私一個人にのみ興趣を催させるばかりで容易にその特徴を説明することの出来ない平凡な景色である。譬えば砲兵工廠の煉瓦塀にその片側を限られた小石川の富坂をばもう降尽そうという左側に一筋の溝川がある。その流れに沿うて蒟蒻閻魔の方へと曲って行く横町なぞ即その一例である。両側の家並は低く道は勝手次第に迂っていて、ペンキ塗の看板や模造西洋造りの硝子戸なぞは一軒も見当らぬ処から、折々氷屋の旗なぞの閃く外には横町の眺望に色彩というものは一ツもなく、仕立屋芋屋駄菓子屋挑灯屋なぞ昔ながらの職業にその日の暮しを立てている家ばかりである。私は新開町の借家の門口によく何々商会だの何々事務所なぞという木札のれいれいしく下げてあるのを見ると、何という事もなく新時代のかかる企業に対して不安の念を起すと共に、その