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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Read 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 133,224 characters · 269 screens
私は上野博物館の門内に入る時、表慶館の傍に今なお不思議にも余命を保っている老松の形と赤煉瓦の建築とを対照して、これが日本固有の貴重なる古美術を収めた宝庫かと誠に奇異なる感に打たれる。日本橋の大通を歩いて三井三越を始めこの辺に競うて立つアメリカ風の高い商店を望むごとに、私はもし東京市の実業家が真に日本橋といい駿河町と呼ぶ名称の何たるかを知りこれに対する伝説の興味を感じていたなら、繁華な市中からも日本晴の青空遠く富士山を望み得たという昔の眺望の幾分を保存させたであろうと愚にもつかぬ事を考え出す。私は外濠の土手に残った松の木をば雪の朝月の夕、折々の季節につれて、現今の市中第一の風景として悦ぶにつけて、近頃四谷見附内に新築された大きな赤い耶蘇の学校の建築をば心の底から憎まねばならぬ。日常かかる不調和な市街の光景に接した目を転じて、一度市内に残された寺院神社を訪えばいかにつまらぬ堂宇もまたいかに狭い境内も私の心には無限の慰藉を与えずにはいない。
私は市中の寺院や神社をたずね歩いて最も幽邃の感を与えられるのは、境内に進入って近く本堂の建築を打仰ぐよりも、路傍に立つ惣門を潜り、彼方なる境内の樹木と本堂鐘楼等の屋根を背景にして、その前に聳える中門または山門をば、長い敷石道の此方から遠く静に眺め渡す時である。