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くさもみじ
荷風随筆集(下)
永井 荷風
Read 荷風随筆集(下) (くさもみじ) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,512 characters · 63 screens
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戦後に逢う二度目の秋も忽ち末近くなって来た。去年の秋はこれを岡山の西郊に迎え、その尽るのを熱海に送った。今年下総葛飾の田園にわたくしは日ごとに烈しくなる風の響をききつつ光陰の早く去るのに驚いている。岡山にいたのは、その時には長いように思われていたが、実は百日に満たなかった。熱海の小春日和は明るい昼の夢のようであった。
一たび家を失ってより、さすらい行く先々の風景は、胸裏に深く思出の種を蒔かずにはいなかった。その地を去る時、いつもわたくしは「きぬぎぬの別れ」に似た悲しみを覚えた。もう一度必ず来て見たいと期待しながら、去って他の地へ行くのである。しかしながら期待の実行は偶然の機会を待つより外はない。
八幡の町の梨畠に梨は取り尽され、葡萄棚からは明るく日がさすようになった。玉蜀黍の茎は倒れて見通す稲田の眺望は軟かに黄ばんで来た。いつの日にか、わたくしは再び妙林寺の松山に鳶の鳴声をきき得るのであろう。今ごろ備中総社の町の人たちは裏山の茸狩に、秋晴の日の短きを歎いているにちがいない。三門の町を流れる溝川の水も物洗うには、もう冷たくなり過ぎているであろう。