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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Read 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,633 characters · 74 screens
冬の闇夜に悪病を負う辻君が人を呼ぶ声の傷しさは、直ちにこれ、罪障深き人類の止みがたき真正の嘆きではあるまいか。仏蘭西の詩人 Marcel Schwob はわれわれが悲しみの淵に沈んでいる瞬間にのみ、唯の一夜、唯の一度われわれの目の前に現われて来るという辻君。二度巡り会おうとしても最う会う事の出来ないという神秘なる辻君の事を書いた。「あの女たちはいつまでもわれわれの傍にいるものではない。あまりに悲しい身の上の恥かしく、長く留っているに堪えられないからである。あの女たちはわれわれが涙に暮れているのを見ればこそ、面と向ってわれわれの顔を見上げる勇気があるのだ。われわれはあの女たちを哀れと思う時にのみ、彼女たちを了解し得るのだ。」といっている。近松の心中物を見ても分るではないか。傾城の誠が金で面を張る圧制な大尽に解釈されようはずはない。変る夜ごとの枕に泣く売春婦の誠の心の悲しみは、親の慈悲妻の情を仇にしたその罪の恐しさに泣く放蕩児の身の上になって、初めて知り得るのである。「傾城に誠あるほど買ひもせず」と川柳子も已に名句を吐いている。珍々先生は生れ付きの旋毛曲り、親に見放され、学校は追出され、その後は白浪物の主人公のような心持になってとにかくに強いもの、えばるものが大嫌いであったから、自然と巧ずして若い時分から売春