Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
おちむしゃにっき
落武者日記
山本 周五郎
Read 落武者日記 (おちむしゃにっき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,460 characters · 23 screens
「なにかおっしゃったように存じましたけれど、もしお苦しゅうございましたら……」
「なんでもないのです、ただ」
あなたが、死んだ妻のように思えたので、……そう云いかけて、口を噤んだ祐八郎のようすを見て、娘は去りかねたように、そっとそこへ坐った。
「お眠りなされませんのですか」
「ひどく疲れているのだが、眼が冴えて眠れないのです。……落人の身でこんな親切な御介抱を受けようとは思わなかった、まるで夢のような気持です」
「そんなにおっしゃっていただくと、かえって恥しゅうございますわ」
娘は健康な膝の上へ、肉付のみずみずしい手を重ねながら云った。
「まだ申上げませんでしたけれど、わたしに兄が一人ございますの」
「お兄さんが」
「それが三年まえ、大阪へ上って武士になるのだと申し、父やわたくしの諫めも肯かず家出を致しました。……こんどの関ヶ原の合戦に、もしや兄が加わっているのではないか、加わっているとすれば石田さまがたであろう、そしてあのお気の毒な敗け戦に遭って、生きて落ち延びることができたろうか、それとも討死をしてしまったか。……父も、わたくしも、その心配で夜も眠れませんでした……わたくしあなたさまを見ましたとき、すぐ石田さまがたのお侍だと存じました、そして」