Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
かいろこう
薤露行
Read 薤露行 (かいろこう) by Natsume Sōseki (夏目 漱石) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,925 characters · 40 screens
湛然として音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗たる面を過ぐる森羅の影の、繽紛として去るあとは、太古の色なき境をまのあたりに現わす。無限上に徹する大空を鋳固めて、打てば音ある五尺の裏に圧し集めたるを――シャロットの女は夜ごと日ごとに見る。
夜ごと日ごとに鏡に向える女は、夜ごと日ごとに鏡の傍に坐りて、夜ごと日ごとのを織る。ある時は明るきを織り、ある時は暗きを織る。
シャロットの女の投ぐる梭の音を聴く者は、淋しき皐の上に立つ、高き台の窓を恐る恐る見上げぬ事はない。親も逝き子も逝きて、新しき代にただ一人取り残されて、命長きわれを恨み顔なる年寄の如く見ゆるが、岡の上なるシャロットの女の住居である。蔦鎖す古き窓より洩るる梭の音の、絶間なき振子の如く、日を刻むに急なる様なれど、その音はあの世の音なり。静なるシャロットには、空気さえ重たげにて、常ならば動くべしとも思われぬを、ただこの梭の音のみにそそのかされて、幽かにも震うか。淋しさは音なき時の淋しさにも勝る。恐る恐る高き台を見上げたる行人は耳を掩うて走る。
シャロットの女の織るは不断のである。草むらの萌草の厚く茂れる底に、釣鐘の花の沈める様を織るときは、花の影のいつ浮くべしとも見えぬほどの濃き色である。