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ぐびじんそう
虞美人草
Read 虞美人草 (ぐびじんそう) by Natsume Sōseki (夏目 漱石) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 198,559 characters · 401 screens
心を二六時に委ねて、隻手を動かす事をあえてせざるものは、自から約束を践まねばならぬ運命を有つ。安からぬ胸を秒ごとに重ねて、じりじりと怖い所へ行く。突然と横合から飛び出した宗近君は、滑るべく余儀なくせられたる人を、半途に遮った。遮ぎられた人は邪魔に逢うと同時に、一刻の安きを故の位地に貪る事が出来る。
約束は履行すべきものときまっている。しかし履行すべき条件を奪ったものは自分ではない。自分から進んで違約したのと、邪魔が降って来て、守る事が出来なかったのとは心持が違う。約束が剣呑になって来た時、自分に責任がないように、人が履行を妨げてくれるのは嬉しい。なぜ行かないと良心に責められたなら、行くつもりの義務心はあったが、宗近君に邪魔をされたから仕方がないと答える。
小野さんはむしろ好意をもって宗近君を迎えた。しかしこの一点の好意は、不幸にして面白からぬ感情のために四方から深く鎖されている。
宗近君と藤尾とは遠い縁続である。自分が藤尾を陥いれるにしても、藤尾が自分を陥いれるにしても、二人の間に取り返しのつかぬ関係が出来そうな際どい約束を、素知らぬ顔で結んだのみか、今実行にとりかかろうと云う矢先に、突然飛び込まれたのは、迷惑はさて置いて、大いに気が咎める。