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むし
虫
江戸川 乱歩
Read 虫 (むし) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 44,053 characters · 86 screens
大きく見開いた、瀬戸物の様なうつろな目が、空間を見つめ、だらしなく開いた唇の間から、美しい歯並と舌の先が覗いていた。唇に生色がなくて、何とやら花やしきの生人形みたいであったが、それ故に、却って(十二字削除)皮膚は青白くすべっこかった。仔細に見れば、二の腕や腿のあたりに生毛も生えていたし、毛穴も見えたけれど、それにも拘らず、全体の感じは、すべっこくて、透通っていた。
非現実的な蝋燭の光が、身体全体に、無数の柔い影を作った。胸から腹の表面は、砂漠の、砂丘の写真の様に、蔭ひなたが、雄大なるうねりを為し、身体全体は、夕日を受けた奇妙な白い山脈の様に見えた。気高く聳えた嶺続きの、不可思議な曲線、滑かな深い谷間の神秘なる蔭影、柾木愛造はそこに、芙蓉の肉体のあらゆる細部に亙って、思いもよらぬ、微妙な美と秘密とを見た。
生きている時は、人間はどんなにじっとしていても、どこやら動きの感じを免れないものだが、死者には全くそれがない。このほんの僅かの差違が、生体と死体とを、まるで感じの違ったものに見せることは、恐ろしかった。芙蓉はあくまでも沈黙していた。あくまでも静止していた。