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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
Read 血の文字 (ちのもじ) by 黒岩 涙香 (くろいわるいこう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 44,021 characters · 87 screens
が其様な事をする筈は無く、矢張り女房が犬を連て行たのだと斯う思いまして其儘思い止まりました」此説明には判事も其女房孝行に苦笑いを催しつ、以後を誡めて放免したりとなん。
藻西太郎は此外に何事をも言立ざりしかど彼が己の女房を斯も罪人と思い詰めたる所を見れば、何か女房に疑う可き廉の有りしには相違なく、多分は倉子が一たび太郎に向い伯父を殺せと説勧めたる事ありしならん、如何に女房孝行とは云え真逆に唯一人の伯父を殺すほどの悪心は出し得ざりし故、言葉を托して一月二月と延し居るうち女房は我所天の活智なきを見、終に情夫の生田に吹込みたる者ならん、生田は藻西太郎と違い老人を縁も由因も無き他人と思えば左まで躊躇する事も無く、殊に又之を殺せば日頃憎しと思う藻西は死し老人の身代は我愛する美人倉子の持参金と為りて我が掌底に落がり込む訳なれば承知したるも無理ならず。
個は余と目科の考えにして孰れとも倉子が此罪の発起人なるに相違なけれど倉子の自由自在に湧出る涙は能く陪審員の心を柔げ倉子は関係無き者と宣告せられ生田は情を酌量し懲役終身に言渡されたり。
藻西太郎は妻に代りて我身を捨んとまで決心したる