Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

Read 血曼陀羅紙帳武士 (ちまんだらしちょうぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,970 characters · 176 screens

Aozora Bunko

何んと老人は眠っているではないか。刀を構え、この様子を眺めていた頼母は、危険はないと思ったか、刀を鞘に納め、二人の方へ寄って行ったが、

「栞殿、そのご老人は?」と、探るように訊いた。

「父でございます」――栞の声は泣いている。

「ご尊父? では、薪左衛門殿で?」

栞は黙って頷いた。

「それに致しても、ご尊父には、ご自身を、有賀又兵衛じゃと仰せられたが?」

「父は乱心いたしおるのでございます」

「ははあ」頼母はやっと胸に落ちたような気がした。狂人ででもなければ、深夜に、躄り車などに乗り、刀を背負い、現われ出で、自分を来栖勘兵衛などと見誤り、ガムシャラに斬ってなどかかる筈はない。(俺は、狂人を相手にしていたのか)頼母は、鼻白むような思いがしたが、

「ご乱心とはお気の毒な。していつ頃から?」

「五年前の、ちょうど今日、府中の火祭りの日でございましたが、松戸の五郎蔵と申す、博徒の頭が参り、父と、密談いたしおりましたが、突然父が、『汝、来栖勘兵衛、執念深くもまだ、この有賀又兵衛を、裏切り者と誣いおるか!』と叫びましたが、その時以来……」

栞は、片袖を眼にあてて泣いた。

屋根ばかりに月光を受けて、水のような色を見せ、窓も雨戸も、一様に黒く、廃屋のように見えている屋敷は、不幸な人々を見守るかのように、庭をへだてて立っていた。