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かいのあなにかっぱのいること
貝の穴に河童の居る事
泉 鏡花
Read 貝の穴に河童の居る事 (かいのあなにかっぱのいること) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 16,260 characters · 32 screens
」
「そうだ、そうだ。いい事をした。――畜生、もう一度出て見やがれ。あたまの皿ア打挫いて、欠片にバタをつけて一口だい。」
丸太棒を抜いて取り、引きそばめて、石段を睨上げたのは言うまでもない。
「コワイ」
と、虫の声で、青蚯蚓のような舌をぺろりと出した。怪しい小男は、段を昇切った古杉の幹から、青い嘴ばかりを出して、麓を瞰下しながら、あけびを裂いたような口を開けて、またニタリと笑った。
その杉を、右の方へ、山道が樹がくれに続いて、木の根、岩角、雑草が人の脊より高く生乱れ、どくだみの香深く、薊が凄じく咲き、野茨の花の白いのも、時ならぬ黄昏の仄明るさに、人の目を迷わして、行手を遮る趣がある。梢に響く波の音、吹当つる浜風は、葎を渦に廻わして東西を失わす。この坂、いかばかり遠く続くぞ。谿深く、峰遥ならんと思わせる。けれども、わずかに一町ばかり、はやく絶崖の端へ出て、ここを魚見岬とも言おう。町も海も一目に見渡さる、と、急に左へ折曲って、また石段が一個処ある。
小男の頭は、この絶崖際の草の尖へ、あの、蕈の笠のようになって、ヌイと出た。
麓では、二人の漁夫が、横に寝た大魚をそのまま棄てて、一人は麦藁帽を取忘れ、一人の向顱巻が南瓜かぶりとなって、棒ばかり、影もぼんやりして、畝に暗く沈んだのである。