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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,351 characters · 43 screens
「当分のうちみんなに黙っていてくれ、と猪之は諄く云いました」と云って藤吉はぬるくなった茶を啜った、「すると半月ばかりして」
船宿の女房が酒をはこんで来た。二つの膳にはそれぞれ燗徳利と、摘み物が三品ばかり並べてあった。勝手にやるから構わないでくれ、と藤吉が云い、女房はすぐに去っていった。
「一つだけいかがですか」
「私はだめだ」
「じゃあ、失礼します」
藤吉は手酌で、舐めるように飲みながら、話を続けた。
半月ほど経った或る日、猪之は藤吉に向かって、あの縁談を断わってくれ、と云いだした。藤吉はいきなりどやしつけられたような感じで、猪之の顔をみつめたまま、暫くはものが云えなかった。
――あにきには済まねえが、あの娘はだめだ、てんでなっちゃねえんだ。
ちょっと待て、と藤吉は遮った。いったいどうしたんだ、なにがだめだ、あの娘のどこがなっちゃねえんだ。
――おれはゆうべ飲みにいった。
――念には及ばねえ、おれもいっしょにいったんだ。
――あにきは一と足さきに帰った、と猪之は云った。おれもすぐに帰ったが、お孝のやつが追っかけて来て呼びとめた、どうしたと訊くと、側へよって来て手を握りゃがった、それでおれは、また、どうしたんだと訊いた、お孝のやつはへんに気取った溜息なんかつきゃあがって、それから握っている手にぎゅっと力をいれて