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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,113 characters · 35 screens

Aozora Bunko

とおとよは身もだえをしながら泣き叫んだ、「どこへいくのもいやだ、あたいこのうちにいるんだ」

「竹造」と去定が云った、「薬籠をよこせ」

竹造は上り框のところで、二人の若者を睨んでいた。いまにもとびかかりそうな顔で、拳を握っていたが、去定に呼ばれてはっとし、薬籠を登のほうへ押しやった。

「安心しなおとよちゃん」と初めの若者が云っていた、「おれたちが付いているからな、誰にだって指一本差させやしねえ、こっちは命を投げだしてるんだから」

「おうよ」とその伴れも云った、「このしまのためにゃあこちとらあ命と五躰を張ってるんだ、なにもだてにこのしまに住んでるんじゃねえんだから」

去定は女主人に薬を渡していた。貝入りの膏薬と煎薬とで、その用いかたを入念に教え、膏薬のほうは自分でおとよに貼ってみせた。おとよはぴたっと泣きやんだ。いままで泣き叫んでいたのが嘘のように、泣きじゃくりさえ残らなかった。

「はっきり云っておくが」と去定は女主人に云った、「今後は決して客を取らすな、もし客を取らせるようなことがあると届け出るぞ、わかったな」

「わたしは大丈夫ですがね」女主人はきせるを取りあげながら云った、「一日十二刻この子にくっついているわけにはいきませんから、この子はませてるし、あんなことは障子の蔭で立ったままでもできるこってすからね」