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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,146 characters · 40 screens
――生れた子を殺して「まびく」という、どこでもおこなわれているし、北国などでは藩で布令を出した例もある。
去定はそう云うのであった。貧窮していて子の多い者、その地方の食糧事情などで、産れ放題にしておいては子を育てることができない。そういう場合には「まびく」ことが黙認されている。しかし、この世に生れて来た者を殺す、ということは無慚であり人倫に反する。必要があると認めたら、まだ胎内にあるうち、つまり「人間」にならぬまえに始末すべきである。こういう持論だったから、おえいの子もおろすつもりだったが、それを聞かされたおえいは、顔色を変えて「いやだ」と云い、去定や他の医員の手をすりぬけて、廊下へ逃げだしたというのであった。
「あたい赤ちゃんを産むの」とおえいはまどろっこい口ぶりで云い張った、「このおなかの子は、あたいの子だもの、どんなことがあったって、産んで、育てるんだ、うう、誰の世話にもならなければいいでしょ」
「おまえが母親になれるのならいい」と去定が云った、「けれどもそれは無理だ、おまえは頭が普通ではないから、自分ひとりでさえ、これからの長い生涯を満足にやってゆくことはむずかしい、そうだろう」