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えちごじし
越後獅子
羽志 主水
Read 越後獅子 (えちごじし) by 羽志 主水 (はしもんど) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,114 characters · 15 screens
家の内から、何か咆る如な声がした。
火事だアッと怒鳴るか、怒鳴らぬに、蜂の巣を突ついた様な騒ぎで、近所合壁は一瞬時に、修羅の巷と化して了った。
悲鳴、叱呼、絶叫、怒罵と、衝突、破砕、弾ける響、災の吼る音。有ゆる騒音の佃煮。
所謂バラック建ての仮普請が、如何に火の廻りが早いものか、一寸想像がつかぬ。統計によると、一戸平均一分間位だ相な。元来、木ッ端細工で、好個焚付けになる上に、屋根が生子板で、火が上へ抜けぬので、横へ横へと匍うからだろう。
小火で済めば、発見者として、辰公の鼻も高かったのに、生憎、統々本物になった許りに、彼にとっても、迷惑な事になって了った。
(三)
三軒長屋を四棟焼いて、鎮火は仕たが、椿事突発で、騒は深刻になって来た。
辰公の見たのが、右側の三軒目で、其処には勝次郎と云う料理職人の夫婦が、小一年棲んで居る。火が出ると、間も無く近所に居たと云う、亭主の勝次郎は、駆けつけて来たが、細君のお時の姿が見えない。ことに依ると焼け死にはせぬかと、警察署の命令で、未だ鎮火りも切らぬ灰燼を掻いて行くと、恰度、六畳の居間と勝手の境目に当る所に、俯向けに成った、女の身体が半焦げに焼けて出て来た。