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おどるちへいせん
踊る地平線(上)
谷 譲次
Read 踊る地平線(上) (おどるちへいせん) by 谷 譲次 (たにじょうじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 168,926 characters · 332 screens
おちぶれた貴族が、猥雑な現在の生活においても、なおかつ過ぎ去った豪奢と栄誉を忘れ得ずに、いつか再び同じ日のまわってくることを固く信じてその望みにのみ生きている――といったものの哀れなこころは、ハルビンとハルビンらしいすべての姿に胸を打って感じられる。この格蘭得火太立旅館がそうだ。その入口にはセゾンの終った歌劇の広告が老プリマドンナの白粉みたいに剥げかかっていても、ちりめん紙を巻いたごむの木の鉢のかげには、確に玄関番の制服が金ぼたんを光らせているし、安物の絨毯は旅行者の踵に踏みやぶられようとも、その大広間は赤の一色で装飾され、ジョニイ・ウォカアの広告油絵と、東支鉄道の灰皿と、大阪製の巨大な花瓶とを宝物のごとくに安置し、一九二四年度の加奈陀太平洋会社汽船案内と近着の巴里雑誌ラ・ヴィ・パリジャンヌとが、隣り合わせにきちんと揃えてあり、食堂は、肥満せる猶太系独逸人ウンテルベルゲル氏が経営して自ら給仕長として立ち、いっぽんの生胡瓜に大洋の一円五十銭をとり、定食には、卓上電灯を半暗にして不可思議な舞踏交響楽がはじまり、帳場の露西亜番頭はたくさんの支那語とすこしの英語とすこしの独逸語と少しの仏蘭西語と、それにすこしの日本語とを話し、浅黄色のわんぴいすを着て頭髪を角刈りにした不柔順な支那ボウイの一隊と、慈善病院の看護