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おどるちへいせん
踊る地平線(上)
谷 譲次
Read 踊る地平線(上) (おどるちへいせん) by 谷 譲次 (たにじょうじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 168,926 characters · 332 screens
する段になると――。
AH! 九月四日通りへ出た時だった。
そこの町角に立って、車道を越そうかこすまいかと沈思している一人の若い英吉利紳士に、私は見事 run in したのである。どうしていぎりす紳士ということが解ったかというと、その、若いくせに分別臭い顔と、手にしている洋傘と皮手袋と、何よりも、刹那に受ける全体の感じとによってである。考えても見たまえ。巴里の町かどに直立して、さてこの目前の車道をこそうか越すまいかと沈思三番してるなんて、わが英吉利人以外にはなかろうじゃないか。
『やあ! お一人ですか。』
私が言った。無論、いぎりす言葉でだ。
すると彼は不思議そうにゆっくりと私の外貌を検査したのち、五月蠅そうに眉をひそめて、
『私と私の影と、まあ、二人伴れですね。』
と余計な返答に及んだが、私は毫もたじろがない。
『この巴里で、影と二人きりとは確かに罪悪の部ですな。が、罪悪は時として非常に甘い。この事実を御存じですか。』
彼は黙って、何度も私の存在を見上げ見おろした。私はつづける。
『あ、そう言えば夜の巴里の甘い罪悪――あなたは、このほうはすっかり――とこのすっかりにうんと力を入れて、――すっかり探検がお済みでしょうな勿論。