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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
Read 近世快人伝 (きんせいかいじんでん) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 79,469 characters · 157 screens
「それは中等の切符じゃないかな」
その頃から十四五年前までは二等の事を中等と云った。従って一等の白切符を上等と称し、三等の赤切符を下等と呼んだ。
「はい。昔の中等です。御老体にコタえると不可ませんから……」
「馬鹿ッ」
という大喝が下等待合室を、地雷火のように驚かした。
「馬鹿ッ。アンタは、まだ若いのに何という不心得な人かいな。吾々のような人間が、国家に何の功労があれば中等に乗るかいな。下等でも勿体ない位じゃ。戻いて来なさい。馬鹿ナッ」
と云ううちに青竹の杖が、今にも筆者の坊主頭に飛んで来そうな身構えをした。……飛んでもない国士のお供を仰付けられた……と思い思い大勢の下等客の視線を浴びながら、買換えに出て行った時の、筆者の器量の悪かったこと……。
それから予定の通り下等の急行列車に乗込むと、又驚いた。
ちょうど二人分の席が空いていたので、窓際の席を翁にすすめると翁は青竹の杖を突張って動かない。
「イヤイヤ。アンタ窓の処へ行きなさい。わしは年寄で、夜中に何度も小便に行かねばならぬけにウルサイ」
どちらがウルサイのかわからない。云うがままに窓の前に席を取ると又々驚いた。