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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

Read 追いついた夢 (おいついたゆめ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,427 characters · 41 screens

Aozora Bunko

おたみは痩せているのにむくんだような蒼い顔で、唇の間から歯をのぞかせて、いい気持そうに熟睡していた。

夕餉のあと始末を終って、縫いかけた母の肌着をひろげたとき、あたりを憚るように宇之吉が訪ねて来た。いつもとは違ったようすで、眼つきがきらきらし、頬のあたりが硬ばっていた。

「ちょっとそこまで出て貰えないか、大島町の河岸で待ってる」

彼はそう云って返辞を待たずに去った。おけいは胸が騒いだ。彼は聞いたのに相違ない。

――どうしよう。

すぐには立てなかった。しかしやがて勇気をだした、母親はその薬の効いているあいだは眠っている。おけいは行燈を明るくして、そっと家をぬけだしていった。

大島町の河岸というのは深川の南の地はずれで、海に面してずっと荒地がひらけている。宇之吉はその荒地の端で待っていたが、おけいが来るのを見ると、黙って草のなかを海のほうへ歩きだした。空は曇っているのだろう、星も見えず、まだ宵のくちなのにきみの悪いほどあたりは暗かった。

「――怒ってるの、宇之さん」

おけいが先にこう云った。

「――なにか聞いたのね」

「ああ聞いた」宇之吉は立停った、「おふくろがおむらさんから聞いたんだ、本当なんだね」