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うん
運
Read 運 (うん) by Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,913 characters · 14 screens
大方それが、気になったせいでございましょう。うとうと眠気がさして来ても、その声ばかりは、どうしても耳をはなれませぬ。とんと、縁の下で蚯蚓でも鳴いているような心もちで――すると、その声が、いつの間にやら人間の語になって、『ここから帰る路で、そなたに云いよる男がある。その男の云う事を聞くがよい。』と、こう聞えると申すのでございますな。
「はっと思って、眼がさめると、坊主はやっぱり陀羅尼三昧でございます。が、何と云っているのだか、いくら耳を澄ましても、わかりませぬ。その時、何気なく、ひょいと向うを見ると、常夜燈のぼんやりした明りで、観音様の御顔が見えました。日頃拝みなれた、端厳微妙の御顔でございますが、それを見ると、不思議にもまた耳もとで、『その男の云う事を聞くがよい。』と、誰だか云うような気がしたそうでございます。そこで、娘はそれを観音様の御告だと、一図に思いこんでしまいましたげな。」
「はてね。」
「さて、夜がふけてから、御寺を出て、だらだら下りの坂路を、五条へくだろうとしますと、案の定後から、男が一人抱きつきました。丁度、春さきの暖い晩でございましたが、生憎の暗で、相手の男の顔も見えなければ、着ている物などは、猶の事わかりませぬ。