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どうひょう
道標
宮本 百合子
Read 道標 (どうひょう) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 846,457 characters · 1672 screens
日本の通夜には、それとしてのしきたりもあって、伸子に見当もつくのだったが、フランスの人々は、こういう場合どうするのだろう。何かあついのみものと、ちょっとしたつまむものが、夜なかに出されて、わるいとは思えない。でも、それは、どうして用意したらいいのだろう。デュトの街では夜が早く更けて、カフェーが夜どおし店をあけているという界隈でもなかった。パリの生活になれず、言葉の自由でない伸子は、宿のマダムと直接相談することを思いつかないのだった。
しばらくの間こっそり気をもんでいた伸子は、やがて、すべては須美子のするままでいいのだと思いきめた。彼女の深い悲しみに対して、伸子が、世間なみにこせこせ気をくばる必要はないのだ。彼女の悲しみを乱さなければ、それが一番よいのだ。磯崎と須美子は、恭介が生きていてこの人々とつきあっていたときの、そのままのやりかたで、今夜もすごしていいのだ。それが友達だ。
須美子は、ときどき席を立って、恭介の横わっている隣室へいった。その室に須美子がいなくなると、客たちの間には低く話しがかわされるのだった。
あけがた、宿のマダムがドアを叩いた。