Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
どうひょう
道標
宮本 百合子
Read 道標 (どうひょう) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 846,457 characters · 1672 screens
伸子の眼のなかが段々暗くなった。
「ね、ちょっと。あなた、須美子さんたちの生活は、あのままにしておくほか仕様がないって、知っている?」
こんどは、素子が黙って伸子をじっと見た。
「わたしたちは、どうせじきモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰ってしまうんだし……なまじっか、ゆすぶったりしちゃわるいわ」
素子は、なおだまってじっと伸子を見つづけた。伸子は、素子から作用をうけた自分の場合をはっきりと思い出して云っているのだった。佃との結婚生活がもてなくなって、佃との家庭にも居たたまれず、さりとて、まだ離婚してしまう決心もできず、ふらついていたとき、素子が伸子の前にあらわれた。それは全く偶然のめぐり合わせであったけれど、ふらついて苦しみ、喘いでいた伸子は、素子が男の友達でないということに心をゆるして、急速に素子に影響されて行った。素子が、伸子から佃をつきはなそうとする強いつっぱりの間に自分の身をかくまわれて。
伸子は、自分の場合は、ああしかありようがなかったと思った。誰よりも自分が佃から去ることをのぞんだのだから。そのために、必死に、はたをかまわずもがいたのは自分であり、責任は、伸子にあるのだから。