Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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さけぬさんざ

避けぬ三左

山本 周五郎

Read 避けぬ三左 (さけぬさんざ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,846 characters · 22 screens

Aozora Bunko

「妹を嫁にほしいというはなしを、大橋どのからたしかに聞いた、結納ももらった、よろこんで貴公にさしあげる」

「だが、もはや出陣のうえは」

「なにを云う、出陣にあたって縁談のまとまるのは二重のよろこびではないか、妹小萩は貴公の妻だ、忘れるな」八郎兵衛はどなるように云った。

「それにしても鷲尾、このことは」

「云うな、大橋どのからすべては聞いた、おれはただ承諾を告げさえすればよい、あっぱれ武運を祈るぞ」

「鷲尾、待ってくれ」

呼びとめようとしたが、八郎兵衛はそのまま馬にとび乗り、

「忘れるな、小萩が待っているぞ」

そう云いざま、鞭をあげて駿府の方へ駈け去ってしまった。

これだけの会話は、むろんまわりにいる者の耳にはっきりと聞えた。同時に、聞いた人々の顔にはありありと驚きの色がうかんだ。そして次ぎから次ぎへと、なにごとかささやき交わすのだった。「……ええ、本当かそれは」「まさか、まさかあの娘が」「あの駿府のかぐや姫がか」そんな声があっちにもこっちにも起った。しかし三左衛門の耳にはなにも聞えない。彼は黙々とあるいている、彼のあたまのなかには、父祖伝来の三河と、荒茫たる関東の原野のまぼろしが明滅している、いま天下のうえにますます不動の地歩を占める秀吉と、関東の隅へ追われるしゅくん家康の困難な将来とが、明暗、表裏の画像となって揺れ