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じゅうべえさんのいっか
重兵衛さんの一家
寺田 寅彦
Read 重兵衛さんの一家 (じゅうべえさんのいっか) by 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,089 characters · 14 screens
幼時を追想する時には必ず想い出す重兵衛さんの一族の人々が、自分の内部生活に及ぼした影響と云ったようなことは、近頃までついぞ一度も考えてみたことはなかったのである。この頃になって、自分に親しかった、そうして自分の生涯に決定的な影響を及ぼしたと考えらるるような旧師や旧友がだんだんに亡くなって行く、その追憶の余勢は自然に昔へ昔へと遡って幼時の環境の中から馴染の顔を物色するようになる。そういう想い出の国の人々は、別にえらい人でもなんでもなかったであろうが、そういう人々から全く無意識の間に受けた教育の効果は、よかれ悪しかれ実に予想外に重大なものであるということが、やっとこの頃になって少しばかり分りかけて来たような気がするのである。
このなんらの山もない重兵衛さん一家の平凡な追憶記は、子供をもった現代の世間の親達にも、もしや何かの参考になるかもしれないと思うのである。(昭和八年一月『婦人公論』)
(『蒸発皿』への追記)この記事が縁となって、重兵衛さんの次男の亀さんからの消息に接することが出来た。今日では立派な医師となって大連の方に住んでいるのである。家族一同の写真を送ってくれたが、四十年前の亀さんの面影が今日でもそっくりそのままに残っているのであった。