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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
Read 重吉漂流紀聞 (じゅうきちひょうりゅうきぶん) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,456 characters · 52 screens
た。われわれの力ではとても助け舟を出されない。どうぞ運よくよその島で助けてもらってくれろというわけ。ここで見捨てられては最後だから、こちらは必死にマネキを振る。村方ではさかんに火を燃す。あの端舟さえ捨てなかったらと、今になって歎くのも愚痴。みすみす手の届くところに地方を見ながら、端舟がないばかりに漕ぎつけることもできない。いまはもう舵もなく、帆柱もなく、浪風に弄ばれるままに、一町、一町、岸から遠ざかる。日も暮れ、その日の宵五ツ時、伊豆の利島と新島の間を通った。この間はわずか十七、八町ばかりなので、太い苧綱を三本つなぎ、三百尋ほどにして碇をおろしてみたが、底が深くて届かない。船は碇をひきずったまま流れて行く。六日の朝、三宅島が見えたので、大急ぎでまた麾を上げたがどうにもならない。情けない情けないといっているうちに、三宅島も波の下に沈んでしまった。
七日になっても風がやまない。船底に水が入り、梁まで届くようになった。水鉄砲を仕掛けて二人で横木を踏み、小口の樋から淦水を掻いださせたが、いちど浪がうちこむと、一刻の骨折ももとの杢阿弥になってしまう。水夫どもはいっこうに腑甲斐なく、桃尻になってうそうそと胴ノ間にしゃがんでいて、大浪が来ると大声をあげて艫ノ間へ逃げこみ、寝框に突ッ伏して念仏をとなえるという埓のなさで