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おちぼ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Read 野菊の墓 (おちぼ) by 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in Japanese with furigana. JLPT N3. Tap a word for the meaning.
N3 · intermediate · modern kanji and kana · 25,621 characters · 52 screens
中島はちょっと見るとそうぞうしい男だが、弁護士より裁判官がいい、新聞記者よりは学校の教員のほうが安全だというぐらいだから、その気風も知れてる。したがって議論も奇抜ではない。木島は容貌からして凡夫でない。顔が大きく背が低く色は黒い。二十一だというに誰でも三十以下に見る者はない。哲学者じみた考えを持っていて、非常な勝気な男だ、真剣にえらいかどうか知れないが、とにかくいうことは奇抜で沈痛だ。
今の学生に一番いけないのは、小利口な点にある、物いうことから先に覚えて、議論ばかり巧者だ。口がりっぱで腹がきたない。やれ理想、やれ人格、信仰だの高尚だのと、看板さわぎばかり仰山で、そのじつをはげむの誠心がない。卑俗な腹でいて議論に高尚がる。それで人を推し人を敬するの量がなく、自分ばかりえらくなりたがる。高尚なる俗論、こんな軽はくな類のものを、どうにかして消滅するくふうをせねば、日本も末はどうなるか知れぬという。
高尚がる俗人というのが木島の十八番だそうな、矢野も木島のいうことはおもしろいと思った。しかし矢野は自分がどうなるかという、もっと身に直接な問題に迷っているのだから、なるほど木島のいうところがもっともだろうと思ったまでで、あまり熱をもって聞かれなかった。