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かわぐちこ
野菊の墓他六篇
伊藤 左千夫
Read 野菊の墓他六篇 (かわぐちこ) by 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,105 characters · 61 screens
趣味の上からは高潔純正をよろこび、高い理想の文芸を味おうてる身で、生活上からは凡人も卑しとする陋劣な行動もせねばならぬ。八人の女の子はいつかは相当に婚嫁させねばならぬ。それぞれ一人前の女らしく婚嫁させることの容易ならぬはいうまでもない。この重い重い責任を思うと五体もすくむような心持ちがする。しかるにもかかわらず、持って生まれた趣味性の嗜好は、君も知るごとく僕にはどうしても無趣味な居住はできないのだ。恋する人は、理の許す許さぬにかかわらず、物のあるなしにかかわらず恋をする。理が許さぬから物がないからとて忍ぶことのできる恋ならば、それは真の恋ではなかろう。恋の悲しみもそこにある。恋の真味もそこにある。僕の嗜好もそれと同じであるから苦しいのだ。嗜好に熱があるだけ苦しみも深い。
友人の借銭もじゅうぶんに消却し得ず、八人の子のしまつも安心されない間で、なおときどき無要なもの好きをするのがそれだ。
この徹頭徹尾矛盾した僕の行為が、常に僕を不断の悔恨と懊悩とに苦しめるのだ。もっとも僕の今の境遇はちょうど不治の病いにわずらっている人のごとくで、平生苦悩の絶ゆるときがないから、何か他にそれをまぎらわすべき興味的刺激がなければ生存にたえないという自然の要求もあるだろう。