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かわぐちこ
野菊の墓他六篇
伊藤 左千夫
Read 野菊の墓他六篇 (かわぐちこ) by 伊藤 左千夫 (いとうさちお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,105 characters · 61 screens
「いけないよ、家へ行ってからでも見にこられるからあとにしなさい」
「ふたりで見にきようねィ、あァちゃん」
姉妹はもとのとおりに二つの頭をそろえて向き直った。もう家へは二、三丁だ。背の高い珊瑚樹の生垣の外は、桑畑が繁りきって、背戸の木戸口も見えないほどである。西手な畑には、とうもろこしの穂が立ち並びつつ、実がかさなり合ってついている、南瓜の蔓が畑の外まではい出し、とうもろこしにもはいついて花がさかんに咲いてる。三角形に畝をなした、十六角豆の手も高く、長い長いさやが千筋に垂れさがっている。家におった昔、何かにつけて遊んだ千菜畑は、雑然として昔ながらの夏のさまで、何ともいいようなくなつかしい。
堀形をした細長い田に、打ち渡した丸木橋を、車夫が子どもひとりずつ抱きかかえて渡してくれる。姉妹を先にして予は桑畑の中を通って珊瑚樹垣の下をくぐった。
家のまわりは秋ならなくに、落葉が散乱していて、見るからにさびしい。生垣の根にはひとむらの茗荷の力なくのびてる中に、茗荷茸の花が血の気少ない女の笑いに似て咲いてるのもいっそうさびしさをそえる。子どもらふたりの心に何のさびしさがあろう。