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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,251 characters · 39 screens
」
「さあ、そのことよ――。」
「紋之助とおこよは、」彦が部屋を覗いて、「いねえ。どこへ行った――?」
幸七が答えた。
「この裏に、高座へ出る前に衣裳を直す部屋がありましてね、出の時刻が迫ると、みなそこへはいりますから――呼んで来ましょうか。」
「いや、いい。」藤吉が停めた。
「その化粧部屋へは、廊下を通らずに行かれるんですかい。」
「はい。ここへ下りずに、向うの唐紙をあけるとすぐのところでございます。」
「武右衛門は、高座から来て間もなく、この廊下を通りながら殺られたんだね。」
「へえ。高座を下りる。ここまで来かかる。ほんのちょっとの間のことで。」
「おこよと紋之助さんは、稽古の話に気を取られていて、障子のそとの廊下で武右衛門が倒れるのを知らずにいた――。」
「そりゃあ親分、ちょうど出の代り、梅の家連が高座へ上った時分で、ここは一番お囃しの鳴物がやかましく聞こえるところだから、ちっとやそっとの騒ぎは耳にはいりませんよ。まして、話に夢中のようだったからね。」
「そりゃあそうだな。こうっと、高座を下りて来る。すぐに殺られる。廊下に人がいねえで、影だけ映っていた――。」
「紋之助さんとおこよさんは、あっしが席主の旦那を呼びに引っ返して、いま親分と一緒にここへ来るあいだに、何も知らねえで化粧部屋へはいったものでごわしょう。