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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,625 characters · 26 screens
と言ったきり、藤吉は気が抜けたように立っていた。どこからともなく、泣くようにまた笑うように、ちろちろと水のせせらぐ音がする、藤吉は耳を傾けた。
「勘。」藤吉が大声を出した。「あの音あ何だ? 水じゃあねえか。」
「あいさ。」と勘次はすまして蔵の前を指しながら、「あれでがしょう。」
見ると、幅四寸ほどの小溝が雨水を集めて蔵の根を流れている。藤吉はにわかに活気づいた。
「深えか。」
勘次は手を入れた。
「浅えや。二寸がものあねえ。」
「どうしてあそこにあんな物が――。」
藤吉は小首を捻る。味噌松が口を入れた。
「地均しの時水が吹きやしてね、で、ああして捌口を拵えといたといつかも旦那が言ってやしたよ。いつもあ水が一寸くらいで、ぐるりと蔵を廻って横町から下水へ落ちてまさあ。」
「勘、底は?」
「へえ、玉川砂利。」
これを聞くと、別人のように藤吉時、威勢よく泥足を洗いながら、
「松さん、二階だ、二階だ。」と唄うように我鳴り立てた。
「お内儀を引っ叩きゃあ細工は解る。勘、呼んだら来いよ。」
三
「悔みあ後だ。え、こう、御新さん、久松留守の尻が割れたぜ。おっ、なんとか言いねえな。