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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,625 characters · 26 screens
「やい、味噌松てものがいるのになぜ桜馬場へ訴人しねえ? 勘弁ならねえ。」
いまいましそうに勘次が言った。
「藤吉親分の繩内だからまず八丁堀へってお神さんが言いましたもの。」
「じゃ、これから駒蔵を呼びに走るんだな?」
「いえ、長どんが行きました。なんでもかんでも駒蔵の親分に出張ってもらわなくちゃあ、って松さんが頑張るもんですから――。」
「長どんてなあもう一人の小僧か。」
「へえ。」
「お前と一緒にお店に寝てたのか。」
「へえ。」
「屍骸あ発見けたなあ誰だ?」
調子に乗った勘次がこう小僧をきめつけた時、
「勘、黙って歩け。」
と藤吉が振り返った。勘次は頭をかいた。
雨に濡れた町に朝の陽が照り出した。昨夜二時ばかり底抜けに降った豪雨をけろりと忘れたように、輝かしい光りが家並の軒に躍り始めた。一行の上に重苦しい沈黙が続いた。
早や金色に晴れ渡った空の下に、茅場町の大通りは捏返すようだった。つい先ごろ、裏に味噌蔵を建てたついでに家の周囲を地均ししたばかりなので、八州屋を取り巻いて赤い粘土が畑のようにぼくぼくうねって、それが雨を吸ってほどよく粘っていた。昨日までの凸凹は真夜中の雨に綺麗に洗われて、平になった土の表面には、家へ向って左手の露地伝いに、まるで彫ったように深い、そしてたしかに三時は経ったと思われる足駄の歯跡が、通りから