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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,319 characters · 29 screens
藤吉の手が最初に一掬いの土を落した。勘次と彦兵衛が狂気のように急いで穴を埋めた。道六神の鬼火石が早速の墓を作った。
「お手のものだ、彦、経を上げてやれよ。」
藤吉が言った。
「生得因果。」
一言呟いて葬式彦はくすっと笑った。
庭の隅にも土饅頭を盛って相前後して足を払い、三人が町へ出た時、照降町の空高くしらじらと天の河が流れていた。
素人八卦は当ったのかわれながら不思議なぐらいだが、幽明の境を弁えぬ凝性の一念迷執、真偽虚実を外に、これはありそうなことだと藤吉は思った。帰り着いたのは短夜の引明だった。勘次が先にはいって二人の頭から浪の花を見舞った。ここに最後の不思議と言えば、燐の凝気が燈明の熱に解けて自然に伸縮して動き出したあの片頬と、猫板の上に遺して行ったおりんの墨跡とが、掻き消すように失くなっていたことだった。
磯屋の物と言わずすべて蒲鉾を口にした覚えのある江戸中の人の気を察して、藤吉は二人の乾児に堅く口外を戒めた。平兵衛の行方不明は、もう一つの、そしてこれが終いの、日本橋の神隠しとして風評のうちに日が経って行った。磯屋跡の背戸口に、時折堅気に拵った八丁堀の三人がひそかに誰かの冥福を祈っている図は、絶えて人の眼につかなかったらしい。