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うし
鎧櫃の血
岡本 綺堂
Read 鎧櫃の血 (うし) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,702 characters · 99 screens
殊にこっちが大家では猶更のことだ。」
「そうですか。成程これで、牛と新年と芸者と……。三題話は揃いました。いや、有難うございました。」
「まあ、待ちなさい。それでおしまいじゃあない。」
「まだあるんですか。」
「それだけじゃ昔の三面記事だ。まだちっと話がある。」と、老人はまじめに言い出した。「年寄の話はとかくに因縁話になるが、その後談を聴いてもらいたい、今の一件は天保三年正月の出来事で、それはまあそれで済んでしまったが、舞台は変って四年の後、天保七年九月の中頃……。」
「芝居ならば暗転というところですね。」
「まあ、そうだ。その九月の十四日か十五日の夜も更けたころ、男と女の二人づれが、世を忍ぶ身のあとやさき、人目をつつむ頬かむり……。」
「隠せど色香梅川が……。」
「まぜっ返しちゃあいけない。その二人づれが千住の大橋へさしかかった。」
「わかりました。その女は小雛でしょう。」
「君もなかなか勘がいいね。女は柳橋の小雛で、男は秩父の熊吉、この熊吉は巾着切から仕上げて、夜盗や家尻切まで働いた奴、小雛はそれと深くなってしまって、土地にもいられないような始末になる。男も詮議がきびしいので江戸にはいられない。