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しっぽうのはしら

鏡花短編集

泉 鏡花

Read 鏡花短編集 (しっぽうのはしら) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,632 characters · 32 screens

Aozora Bunko

たださえ行悩むのに、秋暑しという言葉は、残暑の酷しさより身にこたえる。また汗の目に、野山の赤いまで暑かった。洪水には荒れても、稲葉の色、青菜の影ばかりはあろうと思うのに、あの勝山とは、まるで方角が違うものを、右も左も、泥の乾いた煙草畑で、喘ぐ息さえ舌に辛い。

祖母が縫ってくれた鞄代用の更紗の袋を、斜っかいに掛けたばかり、身は軽いが、そのかわり洋傘の日影も持たぬ。

紅葉先生は、その洋傘が好きでなかった。遮らなければならない日射は、扇子を翳されたものである。従って、一門の誰かれが、大概洋傘を意に介しない。連れて不忍の蓮見から、入谷の朝顔などというみぎりは、一杯のんだ片頬の日影に、揃って扇子をかざしたのである。せずともいい真似をして。……勿論、蚊を、いや、蚊帳を曲して飲むほどのものが、歩行くに日よけをするわけはない。蚊帳の方は、まだしかし人ぎきも憚るが、洋傘の方は大威張で持たずに済んだ。

神楽坂辺をのすのには、なるほど(なし)で以て事は済むのだけれども、この道中には困却した。あまつさえ……その年は何処も陽気が悪かったので、私は腹を痛めていた。祝儀らしい真似もしない悲しさには、柔い粥とも誂えかねて、朝立った福井の旅籠で、むれ際の飯を少しばかり。