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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
Read 長屋天一坊 (ながやてんいちぼう) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 29,453 characters · 57 screens
「その者をこれへ出せ、問答には及ばぬ、その曲者をこれへ出せ」
おわきは、つんとしたものだろう。この野郎腰を抜かすな、などと思った容子で、立って奥へはいって、そうして御落胤を伴れて出て来た。御落胤はすっかり眼をくぼませ、ふらふらと、骨の抜けたような歩き方で出て来て、くにゃくにゃとそこへ坐ったのである。
「これがその曲者だな」武士はこう云って、御落胤の全貌を眺め、ぐっと凄いような声で訊問を始めた、「これ、其の方はなに者で、名はなんと申すか」
「――へ、へ、へ……」
「若殿様には早う、早う御上意遊ばされましょうぞえなあ」
「黙れ女、控えおろうぞ」武士は大喝した、「これ返答をしろ、其の方はなに者であるか」
「あ、あた、あたい、ごやくいん……」
「はっきりと申せ、なに者で名はなんというか、紛らわしきことを申すと、おのれ、容赦はせぬぞ」
「あたあたあた、あたあた」御落胤はまっ蒼になり、震え上って手を合わせた、「あ、あたいは、なんにも知やないんだよ、ごめんだよ、たたた、たんまだよ、や、や、やなやな」
「口も満足にきけぬのか、この馬鹿者」
「そだそだ、そ、みんなねエ、そう云うんだよ、馬鹿め、うす馬鹿めってよ、ほんとだよ、柳原じゃみんな、知ってゆよ、あたいお貰いをしてたかやね、嘘つかないよ」