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かげろうざ
陽炎座
泉 鏡花
Read 陽炎座 (かげろうざ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 33,381 characters · 67 screens
三
片側はどす黒い、水の淀んだ川に添い、がたがたと物置が並んで、米俵やら、筵やら、炭やら、薪やら、その中を蛇が這うように、ちょろちょろと鼠が縫い行く。
あの鼠が太鼓をたたいて、鼬が笛を吹くのかと思った。……人通り全然なし。
片側は、右のその物置に、ただ戸障子を繋合わせた小家続き。で、一二軒、八百屋、駄菓子屋の店は見えたが、鴉も居らなければ犬も居らぬ。縄暖簾も居酒屋めく米屋の店に、コトンと音をさせて鶏が一羽歩行いていたが、通りかかった松崎を見ると、高らかに一声鳴いた。
太陽はたけなわに白い。
颯と、のんびりした雲から落かかって、目に真蒼に映った、物置の中の竹屋の竹さえ、茂った山吹の葉に見えた。
町はそこから曲る。
と追分で路が替って、木曾街道へ差掛る……左右戸毎の軒行燈。
ここにも、そこにも、ふらふらと、春の日を中へ取って、白く点したらしく、真昼浮出て朦と明るい。いずれも御泊り木賃宿。
で、どの家も、軒より、屋根より、これが身上、その昼行燈ばかりが目に着く。中には、廂先へ高々と燈籠のごとくに釣った、白看板の首を擡げて、屋台骨は地の上に獣のごとく這ったのさえある。