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あめ
雨
織田 作之助
Read 雨 (あめ) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 22,261 characters · 44 screens
母は階下の部屋で見知らぬ人といた。野瀬安二郎だとあとで分った。
野瀬安二郎は谷町九丁目いちばんの金持と言われ、慾張りとも言われた。高利貸をして、女房を三度かえ、お君は四度目の女房だった。ことし四十八歳の安二郎がお君を見染めて、縁談を取りきめるまでには、たいした手間は掛らなかった。
「私でっか。私はどないでもよろしおま」
しかし、お君はさすがに、豹一が小学校を卒業したら中学校へやらせてくれと条件をつけ、これはけちんぼな安二郎にはちくちく胸いたむ条件だったが、お君の肩はあまりにも柔かそうでむっちり肉づいていた。
安二郎には子供がなく、さきの女房を死なせると、すぐ女中を雇って炊事をやらせるほか女房の代りも時にはさせていたが、お君が来ると、とたんに女中を追いだし、こんどはお君が女中の代りとなった。彼は一銭の金もお君の自由に任せず、毎日の市場行きには十銭、二十銭と端金を渡し、帰ると、釣銭を出させた。時には自分で市場へ行き、安鰯を六匹ほど買うてきて、自分は四匹、あとお君と豹一に一匹ずつ与えた。いつか集金に行って乱暴されたことがあってから山谷という破戒僧面をした四十男を雇って集金に廻らしていたが、むろん山谷は手弁当で、安二郎のところで昼食すら出されたことはなかった。