Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あめのかみこうち
雨の上高地
寺田 寅彦
Read 雨の上高地 (あめのかみこうち) by 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,473 characters · 9 screens
大正年間の大噴火に押し出した泥流を被らなかったと思われる部分の山腹は一面にレモン黄色と温かい黒土色との複雑なニュアンスをもって彩られた草原に白く曝された枯木の幹が疎らに点在している。そうして所々に露出した山骨は青みがかった真珠のような明るい銀灰色の条痕を成して、それがこの山の立体的な輪郭を鋭く大胆なタッチで描出しているのである。今までにずいぶん色々な山も見て来たが、この日この時に見た焼岳のような美しく珍しい色彩をもった山を見るのは全く初めてであるという気がした。
音に聞く大正池の眺めは思いのほかに殺風景に思われた。しかし池畔からホテルへのドライヴウェーは、亭々たる喬木の林を切開いて近頃出来上がったばかりだそうであるが、樹々も路面もしっとり雨を含んで見るからに冷涼の気が肌に迫る。道路の真中に大きな樹のあるのを切残してあるのも愉快である。
スイスあたりの山のホテルを想わせるような帝国ホテルは外側から観賞しただけで梓川の小橋を渡り対岸の温泉ホテルという宿屋に泊った。新築別館の二階の一室に落ちついた頃は小雨が一時止んで空が少し明るくなった。
窓際の籐椅子に腰かけて、正面に聳える六百山と霞沢山とが曇天の夕空の光に照らされて映し出した色彩の盛観に見惚れていた。