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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
Read 雨の山吹 (あめのやまぶき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 16,433 characters · 33 screens
寐るまえに兄と三浦の妻へ、手紙を書いた。
汝生の病状が悪化して、どうやら危篤らしいから数日滞在する、追ってようすを知らせる。という簡単な文句である。兄へ宛てたほうには、(そこだけ破棄できるように)余白を多くとって、――捜しまわった事実と、絶望らしいこと、また今のところでは、自殺したとしても幸い人に知られていないこと、などを書き添えた。
明くる朝、又三郎は食事のまえに手紙を頼み、草履を買わせた。そして朝食を済ませるとすぐ、海のほうを歩いて来ると云って、着ながしに脇差だけ差して宿を出た。
そこの浜は「加賀の舞子」と呼ばれるくらいで、荒磯の多い北の海辺には珍しく、砂浜の広い汀があり、松林が砂丘に沿って延びていた。風は弱くなったが、九月といえばもう海の荒れだす季節で、濃い碧色のうねりが高く沖のほうにも白い波がしらが頻りに立ち、汀は絶えず砕け散る波の泡で、雪白にぎらぎらと輝いていた。砂浜がゆるく彎曲してゆき、やがてしだいに岩の多い磯になると、近くに潮の流れでもあるとみえ、波はさらに荒あらしく、岩礁を噛んでは激しく飛沫をあげた。そのあたりには、漁夫の子供たちが、鉤の付いた長い竿で、流れて来るなにかの海草を拾っていた。