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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Read 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,414 characters · 289 screens
今でも多分変りはあるまい。私は折々この貸長屋の窓下をば監獄署から流し出す懲役人の使った風呂の水が、何ともいえぬ悪臭と気味悪い湯気を立てながら下水の溝から溢れ出していた事を記憶している。しかし驚くべきはこの辺に住んでいる女房たちで、寒い日にはそれをば頻と便利がって、腫物だらけの赤児を背負い汚い歯を出して無駄口をききながら物を洗っている。また夏中は遠慮もなく臭い水をば往来へ撒いていたものです。
さて坂を下り尽すと両側に居並ぶ駄菓子屋荒物屋煙草屋八百屋薪屋なぞいずれも見すぼらしい小売店の間に米屋と醤油屋だけは、柱の太い昔風の家構が何となく憎々しく見え、漠とした反抗心を起させます――といってそれは社会主義なぞいう近代的の感想ではない。家構が古い形だけに、児雷也とか鼠小僧とか旧劇で見る義賊のような空想に過ぎない。この辺に不思議なのは二軒ほども古い石屋の店のある事で、近頃になって目について増え出したのは天麩羅の仕出屋と魚屋とである。これは日を追うて建て込んで行く貸屋のために界隈が開けて来た証拠であろう。青苔の薄気味わるく生えた板の上、油で濁った半台の水の中に、さまざまの魚類の死骸や切りそいだその肉片、串ざしにした日干しの貝類を並べて、一つ一つに値段を書いた付木や剥板をばその間にさしてあるが、何れを見ても、一片十銭以上