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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Read 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,414 characters · 289 screens
、版元蔦屋は身代半減という憂目を見た事なぞ、やがて談話はそれからそれへと移って遂には英一蝶が八丈島へ流された元禄の昔にまで溯ってしまったが、これは五渡亭国貞が先頃から英一蝶に私淑してその号まで香蝶楼と呼んでいたがためであった。折から耳元近く轟々と響きだす増上寺の鐘の声。門人種員はいよいよ種彦の様子を見に行こうと立上り大分山の痛んでいるらしい帯の結目を後手に引締めながら簾を下した二階の欄干から先ず外を眺めた。日の長い盛りの六月の事とて空はまだ昼間のままに明るく青々と晴渡っていた。いつもならば向河岸の屋根を越して森田座の幟が見えるのであるが、時節がらとて船宿の桟橋には屋根船空しく繋がれ芝居茶屋の二階には三味線の音も絶えて彼方なる御浜御殿の森に群れ騒ぐ烏の声が耳立つばかりである。夕日は丁度汐留橋の半ほどから堀割を越して中津侯のお長屋の壁一面に烈しく照り渡っていたが、しかし夕方の涼風は見えざる海の方から、狭い堀割へと渦巻くように差込んで来る上汐の流れに乗じて、或時は道の砂をも吹上げはせぬかと思うほどつよく欄干の簾を動し始める。
国貞と鶴屋の主人は共々に風通しのいいこの欄干の方へとその席を移しかけた時、外を見ていた種員が突然飛上って、「皆さん、先生がお帰りで御座ります。