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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Read 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,414 characters · 289 screens
全くいつもより朝はまだよほど早かったらしい。二人が押開く柴折戸の裾に触れて垣際に茂った小笹の葉末から昨夜のままなる露の玉が、斜にさし込む朝日の光にきらきらと輝きながら苔の上にこぼれ落ちた。種彦は機嫌よく、
「朝起は老人のくせさ。お前たちこそ今日は珍らしく早起をしたもんだな。それとも昨夜の幕の引っ返しという図かね。」
「てっきり恐縮と申上げたい処ですが近頃はどう致しまして。どこもかしこも火の消えたようでいや早や情ない位で御座います。」
「いずこも同じ秋の夕暮かナ。」と種彦は戯れながらふと植込に吹入る朝風の響に、「いや暑い暑いといっている中もう秋風が吹くと見える。」
「眼にはさやかに見えねどもと古歌にも申す通り、風の音にぞ驚かれぬるで御座います。」といいながら種員は懐中の手拭を出して雪駄ばきの裾を払い濡縁の上に腰を下したが、仙果は丁度己が佇んだ飛石の傍に置いてある松の鉢物に目をつけ、女の髪にでも触るような手付で、盆栽の葉を撫でながら、
「先生これァいつお求めになりました。木の太さといい枝ぶりといい実に見事な盆栽で御座いますな。」
「それはこの中請地村の長兵衛という松師に頼まれて、庭木戸の額を書いてやった返礼に貰ったのだが、売買いにしたらなかなか吾輩の手に這入る品ではあるまい。