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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Read 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,414 characters · 289 screens
その恩義もあれば、また未練もあるはずだ。年も三十を越しているから、今更自分を振り捨てて行く気遣はまずない。それは衣類を質入しながら半年あまり離れずにいるのを見ても確である。重吉の胸の中には早くから或計画がなされていた。
重吉は三、四年この方カフェーの女給が尠からぬ収益を得ている事を知って、お千代を女給にしたいと思っていた。しかし自分の口から先にその事を言出すのは、女から薄情だと思われる虞れがある。女の口から言わせるように為向けて、そして自分が止めるのをも聴かず、女が敢てするようになることを望んでいた。
重吉はお千代が家をたたんで間借りをしようと言出したので、計画の半は既に成就したような気がした。飯田町辺の素人屋の二階へ引移った後、重吉は家にばかり一緒にいては、女に思案の余暇を与える時がない。女がどうかいう場合、男にも優った決心とその実行とを敢てすることがあるのは、思慮分別の結果ではなくして、大抵は一時の発作による。この発作は無聊と寂寞とに苦しむ結果による事が多いと考えたので、時を定めず外へ出るようにした。勿論、これは去年破産した土地会社で知合になった人たちをたずね歩いて、就職口をたのむためでもあった。